
世界的文豪、小泉八雲 (ラフカディオ・ハーン)の名作『雪おんな』。
この物語が、実は東京都青梅市に伝わる伝説に基づいていることをご存知でしょうか?
名著『怪談(KWAIDAN)』の序文には、八雲自身の手によって、その驚くべき出自が記されています。
小泉八雲 が記した:武蔵国多摩郡の親子
八雲は序文の中で、この物語の出所についてこう明言しています。
「この物語は、武蔵の国、多摩郡調布の百姓、親子から聞いたものである……」
この「調布」こそが、現在の青梅市南部(旧調布村周辺)に当たります。
八雲が東京の自宅で奉公人として働いていた親子から聞き取った実話に近い伝承、
それが「雪おんな」の原点だったのです。
厳密に言えば、八雲は妻のセツにそのストーリーを語らせ、それを脚色して更に怪談ストーリーへと仕上げていったそう。なので、ある意味、共作ともいえますね。
語り手は誰だったのか? 浮かび上がる「お花」の存在
近年の郷土史研究や、八雲の曾孫である小泉凡氏らの調査により、この「親子」の正体が明らかになってきています。
物語を八雲に伝えたのは、青梅出身の「宗八(そうはち)」とその娘「お花(おはな)」であったという説が極めて有力です。
お花さんの足跡: 当時、八雲の妻・セツの身の回りの世話をしていたお花。
彼女が幼い頃、多摩川のほとりで耳にした吹雪の夜の伝承が、セツに伝わり、それが八雲の鋭い感性と響き合い、不朽の文学作品へと昇華されました。
実在する聖地: お花さんの実家があったとされる青梅市調布橋周辺や、彼女が眠るお寺もわかっているそうです。今どんな気持ちでこの「雪おんな」の行く末を見守っているのでしょうか...
100年の時を超えて——お花さんが現代に託す願い
八雲に物語を届けた少女、お花。 彼女がかつて暮らした青梅市下町の風景や、今も静かに眠る菩提寺の存在を思うとき、ふと不思議な感覚に包まれます。
もし今、お花さんの魂がこの青梅の空から、私たちが「雪おんな」を語り継ぐ姿を見守っているとしたら……。彼女はどんな想いでいるのでしょうか。
「雪の夜の奇妙な話を、まさか異国のあのお方が、こんなに美しい物語にしてくださるなんて。
そして今、私の故郷・青梅で、私の名前を呼び、私の心に寄り添ってピアノを奏でてくれる人がいる。
遠い昔、私が八雲さまに託した小さな記憶の種が、100年の時を経て、こんなに豊かな音の花を咲かせている。
私の愛した多摩川のせせらぎ、雪の匂い、そしてあの切ない約束を、どうか皆さまの心に届けてください……。」
想像ですが、そんなお花さんの、静かで温かな眼差しを感じずにはいられませんね。
3月14日の青梅市で聴く「雪おんな」イベントは、単なる「怪談」ストーリの再現ではありません。
お花さんがかつてセツに話し、そこから八雲に託され、そして今、私に託された「故郷への愛と、目に見えないものへの畏敬の念」を、皆さまと分かち合うための大切な1日なのだなと改めて感じます。
お花さんの実家があったと言われる調布橋のほとり、そこから見える景色や匂い、そして彼女が眠るお寺の鐘の音。 それらすべてが、当日のピアノの響きに溶け込み、音楽が奏でられることでしょう。
3月14日、青梅で「雪おんな」の魂を奏でる
2026年3月14日、この物語の聖地・青梅にて、ピアニスト藤波結花による特別な公演を開催いたします。本公演では、オペラ「雪おんな」を中心にノルドグレン作曲のピアノソロ『ゆきおんな』も披露します。どちらも滅多に聞かれることない演目で、青梅市初。
かつて青梅から八雲の心へと届き、やがて世界へと羽ばたいた『雪女』。
その物語の面影を宿す聖地・青梅で、今、再び音楽となって幻想的な調べが響き渡ります。

